公共ホール職員様からのコメント
「演奏する」とは、世界の一部を切り取り、その断面を見せることだ。切れ味が鋭ければ鋭いほど、その断面は美しい。人はその美しさに陶然とし、畏れ慄く。それができる人は、芸術家である。芸術家には、迷いがない。なぜなら彼らには、全てが自明のことだからである。彼らはただ、夏目漱石が夢見た如く、木の中に埋まっている仏を取り出しているにすぎない。音は生まれる前にすでに鳴り響き、キャンバスは織り上げられる前に絵の具を背負っている。そうとしか思えないほど、彼らが産み出すものは、必然の衣をまとう。宮本妥子は、まぎれもなく芸術家である。迷いのない切っ先は鋭く、断面はこの上なく美しい。だから、客席にいる私たちの運命は、すでに決まっている。私たちに聴こえないだけで、音はすでに鳴り響いているのだ。ギリシャの人々が喝破したとおり、天球に鳴り響く、永久不滅の音楽として。
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